DECHOCAGE・SAMU編

第二回(2005年秋):牧野洋(静岡県出身、7年目麻酔科医師)

DECHOCAGE編

 産科麻酔の研修後、DECHOCAGE(日本語で、ショック離脱室)にて研修させていただきました

 写真はDECHOCAGEのあるURGENCE(成人救急)の建物です
 URGENCE棟のフロアー構成は以下の様になっています

 地下:DECHOCAGE(4床)と外傷手術室(2室)と脳外科手術室(2室)
 0階:外傷救急
 1階:Medical ICU:心筋梗塞などの Non Surgical な患者さんが入る
 2階:混合ICU:外傷の術後患者や脳外科手術後の患者さんが入る

 DECHOCAGE以外の階のベッド数は約20床ほどです

 麻酔科医は各ICUで術後管理や重症患者管理に重要な役割を果たしています。URGENCE専任で働いている麻酔科医は14名ほどだそうで、当直は他所で働いている麻酔科医の応援を得ています
 DECHOCAGEでは外傷性などの様々なショック状態にある患者さんや意識障害の有る患者さんを治療します

 たとえば、多発外傷などの患者さんは救急処置室を通らずに、直にDECHOCAGEに搬送され、DECHOCAGEにてライン確保・除痛・バイタルの安定が図られ、その後全身の検査や処置が行なわれます。いわば対ショック救急初療室兼ICUといったユニットです

 重症患者を主に治療するユニットなので、壁に張ってあるイラストの様に、家ではぬくぬくしてても、DECHOCAGEの仕事が終わると疲れてぼろぼろになってしまうのですが、実際の所DECHOCAGEが活気づくのは夜9時過ぎから位です。フランスでは少量の飲酒後の運転が認められているので、その位の時間から交通外傷がガンガン運び込まれて来ます

その反面、日勤帯はあまり忙しくありません
 DECHOCAGEの病室

 人工呼吸器、モニター、シリンジポンプ、救急カートが装備されており、あらゆる事態に対応できる体制がとられています

 ここで興味深かったのは、患者さんが運び込まれて来たときに、バイタルが許せば、まず第一に除痛を図るという方針でした。日本では検査を優先させるような場合でも除痛優先というのには、文化の違いを感じさせました
 医学生がエコー検査を行なっている所です

 後述のSAMUで待機中の医学生は、出動がない時にDECHOCAGEに来て、実習を行なっています
 Radial artery に動脈ラインを挿入しているところ

 興味深かったのは、ここでは意識の有る患者さんに局所麻酔でRadial artery line を入れるという事が行なわれておらず、動脈ラインを入れるときはRadial であろうがどこであろうが患者さんを鎮静させた後、サージカルガウンを着てセルジンガー法で長いカテーテルを入れます

 これは、Purpanだけでなく、心臓手術の行なわれている Ranguil病院 でも同じだそうです。つまり、どんなに状態の悪い患者さんの心臓手術でもマンシェットで血圧を測りながら導入し、導入後に動脈ラインを入れるそうです
 ナースステーション兼コントロールルーム
 明るい色調でまとめられた患者面談室


外傷手術室編

 前述の様にDECHOCAGEは夕〜夜にかけて忙しくなり、昼間は比較的時間に余裕があるため、そういった時には外傷手術室を見学させてもらっていました

 手術室内では日本と同じく帽子マスク着用でした。足は専用のスリッパを持っている人はスリッパ。持っていない人はシューズカバー着用でした

 写真中央はURGENCEの麻酔科責任者Michel 先生

 左は牧野洋(7年目麻酔科医)

 右はイランから研修にいらしたAldehali先生(34歳母国では助教授)
 イランは冷戦下では欧米特にアメリカとの関係が非常に深く、医療システムもアメリカ流だったのですが、1979年のイスラム革命で、一気に反米国となったため、社会のシステム全てが米・英以外の国(フランスなど)よりに変化してきています。だからAldehali先生もフランスに研修に来たそうです

 フランスの人々は距離的に近い事もあってか、イスラムやイランの事についての知識が豊富です。私はイランやイスラムの事について何も知らなかったため、彼の話すイランやイスラムの事が非常に新鮮で面白く、今までの無知から来る偏見をとても恥ずかしく思うと共に、話し合う事、理解しあう事の大切さを痛感しました。とても良い体験になりました
 ここ外傷手術室では、全身麻酔の場合手術室内で導入を行ないますが、神経ブロックによる麻酔の場合、効果発現まで待たねばならないため専用の神経ブロック室にて導入します

 効果が発現してきたら手術室へ運びます

 この部屋にはブロックの道具だけでなく、救急蘇生用の道具も完備されています
 壁にはブロックの為の神経走行図がかけられていました

 フランスでは神経ブロックが非常に盛んで、数多くの手術が神経ブロックで行なわれています

 前述の様に、神経ブロックは当然麻酔科医の仕事です 
 アキレス腱断裂の縫合術前に神経ブロックを行なっているところです

 ほぼ全例神経刺激器を用いてブロックを行なっており、さまざまな神経刺激器がありました
 
 手術自体は特に日本とかわりばえなく行なわれます

 麻酔に関して面白かったのは(以下はあくまで印象です)

 @日本でまだ使えない薬(写真)を使っていた

 A日本の麻酔よりもいろいろな薬をチャンポンして使う傾向があるような気がします。ある症例では導入直前にミダゾラム、スフェンタ、プロポフォール、ケタミンでTIVAかと思ったら笑気が入っていたりしました

 B笑気とミダゾラムが大好きで、たいていの症例に投与される。外傷患者に中心静脈などのラインを入れるときにも局麻せずに笑気を投与して意識を落として入れるなどしていました
 外傷手術室のリカバリールーム

 全身麻酔の場合、手術が終了すると、どんなに術前状態の良い患者でも、手術室で抜管せずにすぐにリカバリールームに運び、リカバリールームで抜管していました
 こちらはおまけ

 手術で使う道具は日本と同じ様に手術ごとにパックされ滅菌された状態で保存されています


SAMU編

SAMU
 SAMUとはフランス及び、フランス語文化圏における救急医療サービスの事で、Service d'aide médicale urgenteの頭文字をとったものです

 DECHOCAGE研修中に、Purpan病院に拠点を持つ、SAMUを見学するチャンスがあったので報告します

 わずかな時間の足早な見学でしたので、説明されて理解できなかった所などは、西川渉さんの「航空の現代」というホームページから多数箇所を引用させていただきました

 写真はSAMUセンターが入ったオフィス
 日本の119番にあたる番号はフランスでは15番になります

 Toulouseでは、15番の電話はPurpan病院にあるSAMUセンターにつながります。その電話を最初にとるのは専門の訓練を受けた電話交換手(手前に座っている人達)です

 電話を受けた交換手は、患者さんの状態を聞いて医師に伝えます。医師は必要に応じて電話に出ますが、最も症状が軽い場合は医学上のアドバイスを与えて終わります。しかし症状が重い場合は近所の開業医に往診を依頼します。それができないときは救急車を派遣する事を決定します
 手前の女性が今日の通信担当医師で、どうするのか?誰が行くのか?どこへ運ぶのか?を決定します。

 通信担当医師は一般に病院勤務医で、麻酔と集中治療の訓練を受けています

 このシステムは当然24時間体制です
 ここは、機材庫兼ブリーフィングルームです。出動命令が下った時に、待機していたSAMUスタッフはここに集合して、FAXで送られてくる情報を確認し情報を共有します

 Purpan病院のSAMUチームは4人で構成され、ドライバー、医師、看護師、医学生おのおの一人という構成です
 FAXで送られてきた患者情報

 患者情報、搬送先などが書かれています
 必要な機材はあらかじめ救急車内にセットしてありますが、特殊な装備を必要とするときはブリーフィングルームの棚から持って行きます
 救急車
 装備は日本の救急車とほとんど一緒でした
 救急車に搭載された医療器具
 大災害用の台車

 多重交通事故や災害で多くの患者が出た場合、医療器具を満載した台車を救急車に牽引させて現場へ運びます
 ドクターカー

 患者さんの状態が切迫し、生命の危険が想定されるときには、高速走行できるドクターカーを走らせ、それを追って救急車を派遣します。医師が大型の救急車で走っていては渋滞に巻き込まれたりして時間がかかるからです。さらに距離が遠い場合はヘリコプターを飛ばします

 救急の要請に対しては救急車だけでなく、ドクターカーからヘリコプターまであらゆる手段を使って、最も早い方法で医師を患者さんのもとへ送り届けるというのがSAMUの基本思想です

 現場に到着した医師、看護婦、救急救命士は直ちに蘇生手当を行います。患者さんはその場で初期治療を受け、それから病院へ搬送されるのです
 ドクターカーの後部にも救急処置に使われる品々が満載されていました
 薬品バッグ
 中には医薬品がどっさり入っています

 日本の病院の手術室に有る救急カートに準備してある位の薬が入っていました
 薬効ごとに色分けされて、外から中に何が入っているのかすぐ解るようになっています
 心血管作動薬バッグの中身

 同じ薬が複数入っているのが解ります
 アンプルや針を捨てる”危険物入れ”まで入っていました
 モニターと除細動器が一体となったCorpus life pack
 酸素ボンベ
 挿管(INTUBATION)困難(DIFFICILE)セットも入っていました
 その他シリンジポンプや様々な医療機器を動かすために、補助バッテリーが搭載されており、駐車中に充電されていました
 ドクターカーの運転席です

 無線機やGPSなどが搭載されていました
 救急出動用のカルテ
 トリアージタグなども標準で装備されています
 救急ヘリコプター

 トゥールーズのSAMUは2機のヘリを持っていて、一機はPurpanに、もう一機は空港に駐機しています

 ここでは、状況に応じて医学生もヘリコプターに乗り込みます。医学生の一人に聞いてみたら、「最初はとても怖かったけど、慣れるとものすごく気持ちがいいですよ」と言っていました
 ヘリポートの給油設備
 ヘリ用の機材庫

 機体別に物品が分けておいてあります。壁に表示されている2というのは2号機の物品という意味です
 休憩時間にSAMUの隊員は次の出動に備えサッカーゲームでリラックスしていましたが、「休憩の時には気持ちをリラックスさせて、いざという時に思い切り集中する。コレが一番大事なんだよ」と言っていました
C.C.M.M
 SAMUセンターの隣には、C.C.M.Mという部署がありました。C.C.M.M.とはCentre de Consultation Médicale Maritime の頭文字だそうです

 ここは、遠洋航海に出ている船舶のための医療相談所で、海上で病気や怪我が発生し、医療相談を行ないたいときには、無線でここに連絡すると担当医が相談に答えるというシステムになっています

 フランス語の船舶向け無線医療相談窓口は世界中でここPurpan病院にしかありません

 しかし、なぜ内陸のトゥールーズに船舶向けの医療相談所?と思ったら、「フランス中で一番早く世界中と交信できる無線アンテナ施設ができたから」とのお答えでした
Centre Antipoisns
 さらに、SAMUセンターの隣にはCentre Antipoisns(日本風に言うと毒物中毒110番)みたいな所があり、キノコをはじめとする自然毒や、さまざまな毒物に対する相談を受ける部署もありました

 トリュフをはじめとして、フランス人は沢山キノコを食べるので、秋は忙しくてしょうがないそうです

 SAMUセンター、C.C.M.M、Centre Antipoisnsの三つのオフィスが隣り合う事によって連携し、一箇所では対処できない場合補い合うという体制がとられており、素晴らしいシステムだと思いました
ファイアー・アンビュランス
 フランスで救急医療の中心をになっているのはSAMUですが、日本と同じように消防署に所属する救急車もあります

 消防の救急車もSAMUの指揮下にあるそうですが、細かい住み分けなどは良く解りませんでした
 中身はSAMUの救急車と一緒でした