麻酔科新聞 9/29 留学報告号

木村哲朗先生@サンフランシスコ

カリフォルニア大学サンフランシスコ校 橋本ラボに留学中の木村哲朗先生から
留学報告が届きました!
麻酔科の皆様

ご無沙汰しています。いかがお過ごしでしょうか?
2017年4月からUCSF(Hashimoto lab)に留学させて頂き、
早いもので気付けば半年も経ってしまいました。

UCSFのあるサンフランシスコは、米国西海岸カリフォルニア州の
ちょうど中央に位置しています。
ベイエリアは気候がいいことで知られていますが、サンフランシスコは特別で、
雨は少ないのですが、非常に霧が多く、夏でも肌寒さを感じることが多いです。
特に寒い日は、夏でも室内でダウンを着ています。
代わりに冬が比較的暖かいようで、年中同じような格好で過ごすことになりそうです。
さんさんと照りつける太陽というカリフォルニアをイメージしていましたが、
ずいぶんと印象が違っていました。
これからインディアンサマーと呼ばれる暖かくて、天気がいい日が続くようなので、
遅く来た夏を楽しみたいと思っています。
   Facebook CEOのザッカーバーグの寄付のおかげで、ピカピカの新病棟
病院の名前もザッカーバーグ・サンフランシスコ総合病院(ZSFG)に変更されました。
サンフランシスコは、非常に移民が多い街で、色々な言語、文化が溢れています。
差別的な印象を受けることはほとんど無く、むしろ親切でフレンドリーな人が
とても多い印象です。
運良くUCSF管理の寮(家賃が安め、それでも目玉が飛び出るほど高い)に
入居できたのですが、お隣はイスラエル人、その隣はインド人、上には中国人が住んでいます。
夕食時には、日本では嗅いだことの無いような複雑な匂いが漂います。
言語は英語以外に、スペイン語、中国語が公用語のように扱われています。
さすがに日本語が通じることはほとんどありませんが、日本食を扱うアジア系スーパーも多く、
日本食が恋しくなることはありません。
納豆などは、見たことも無いようなものも含めて20種類程度を常備(冷凍)している
スーパーもあります。
先日は北海道フェアをやっていて、六花亭のバターサンドや三方六などのおなじみの
お菓子の取り扱いもありました。
ただ、極端に魚が手に入りにくいので、鮮度のいい魚を求めて1時間かけて他の街まで
買出しに出かけることもあります。
日本のラーメンも人気が高い様でラーメン店も多いのですが、猫舌アメリカ人仕様なのか、
ぬるめのスープで一杯12ドルとかするので、ほとんど試せていません。
今度、丸亀製麺がオープン予定で、楽しみにしています。
   自分の歓迎会で、ラボの近くのボルダリングジムに行きました。
もちろんHashimoto先生も登りました。むしろ一番器用に!
半年経ちましたので、すっかり生活面は落ち着きましたが、最初は色々と苦労しました。
特に大変だったのは、子供の学校です。
サンフランシスコは地域による学力の偏りを減らす目的から、
市内全域が学区としてSFUSDという部署により管理されています。
住まいのすぐ近くの学校に通えることは極めて稀で、早い段階からの申し込み、
抽選によって通える学校が決まります。
こちらでは8月下旬からが新学期となるので、4月に渡米した場合には、空きのある
少ない候補から半ば消去法で選択し、編入するという形をとらざるを得ませんでした。
それでも、長女(8歳)の学校は比較的すぐに決まったのですが、
長男(6歳)のKinderに空きがなく、治安の悪さで有名なエリアの学校に
通わせるのも怖いので、しばらくwatingの状態が続きました。
何度もSFUSDに足を運びましたが話は進まず、長い夏休みを経て、
ようやく長女と同じ地元の小学校に入ることができました。
お子さんをお持ちのほかのポスドクでも、苦労されている方が多く、
片道1時間程度かけて、登下校の毎日2往復を付き添っていらっしゃる方もいます。
サンフランシスコを舞台としたインサイドヘッド(原題Inside Out)で
主人公が転向した学校になじめず辛い思いをしていたのを見て、
当初はかなり心配していましたが、親の不安をよそに、
初日から友達を作って笑顔で帰宅した長女には、涙が出そうになりました。
 写真左の茶色い建物がラボのある施設。
頂上にタワー(Sutro Tower)が立っているのがTwin Peaks。
タワーの足元に寮があり、毎日自転車で通勤しています。
行きは下るだけで気持ちいいのですが、帰りが結構辛い・・・
Hashimoto labではPI(Hashimoto先生)の方針として、テーマに関する指示出しは
ほとんどありません。
基本的にポスドク自身が興味のあるテーマを捻出、プレゼンして、PIがジャッジする形式です。
自由度が非常に高い反面、PIに研究テーマを承認されなければ、
何の実験にも入ることができません。
自分では面白いと思った自信のある内容でも、ミーティングでぼろくそにダメだしされながら、
何度もプレゼンを行いました。
テーマが興味深くても、具体的な実験プロトコールを考えると、入手可能なマウスの状況や、
lab環境で行える実験内容、費用のことなど様々な問題が次々と生じます。
基礎研究を行う研究者として当たり前のことなのでしょうが、ずぶの素人の自分としては、
一つ一つが巨大な壁のように感じます。
この半年間はテーマを捻出するのと平行して、実際に研究を行う上でのモデル作成、
標本の切り出しや免疫染色などの練習、他のポスドクの手伝いやマウスのgenotypingなどを
行いながら、慌しくあっという間に時間が過ぎていきました。
最近ようやくテーマが決まり、予備実験のプロトコールを具体的に詰めている段階です。
 
ベイエリアではUCSFのほか、車で40分ほどの場所にあるStanford大学への留学も盛んです。
他の留学生の方達と交流する機会もあるのですが、他の診療科であったり、
そもそも医師ではなく、研究一本で勝負し続けている人も多くて、
日本にいては知り合うことの無かったような方々ばかりです。
皆さんもちろん大変優秀で素晴らしいな方々で非常に勉強になりますし、
色々な形の人生があるのだなあと、とてつもない刺激を受けます。
そのような方々と知り合えただけでも、自分の人生にとって財産になっていることを感じます。

中島教授より渡米前の自分に、「人生において最も素晴らしい2年間になるだろう」との
お言葉を頂きました。
半年が経過したところですが、すでに自分にとって「最も素晴らしい半年間」となっています。
本当に思い切ってこちらに来てよかったと、今回の留学のチャンスを頂いたことを
中島教授を始め、医局員の皆様に改めて感謝申し上げます。


木村哲朗拝


住まいが山の上にあるので、少し歩けば絶景ポイントです。
遠くにはGolden Gate Bridgeも見えます。