■名称

 エーテル C2H5O-C2H5

■歴史

 1540年 Valerius Cordus (1514-44) によって合成される

 1846年10月16日 Morton によって公開の場で初めて全身麻酔に用いられた



 First Operation Under Ether

 (→エーテルドーム
 1919年の米国のある手術室の写真

 座っている人が患者の顔を覆ったガーゼのマスクにエーテルを垂らしている

■化学

 ethyl ether は130℃付近において硫酸にエチルアルコールを注ぐとできる

 2C2H5OH + H2SO4 → (C2H5)2O + H2O + H2SO4 麻酔用エーテルは96〜98%の純度

 無色揮発性の液体で特有の臭いあり。分子量 74、比重 0.718 (15℃)。蒸気の比重は空気1に対して2.6で空気より重い

 沸点34.6℃。安定だが、光、熱によって aldehyde と peroxyde が生じるため密封して冷暗所保存が必要

 麻酔用エーテル”スクイブ”の入った缶 (114g入り)

 本品は三楽オーシャン(注1)が米国イー・アール・スクイブ・アンド・サンズ社(注2)との技術提携によりその製法を取り入れて製造したもの


 マリンクロット社製のエーテル缶はこちらをご覧下さい
 裏面は英語表記
 横から

 箱書き:

 「注意:エーテルは非常に引火し易いものですから、焔や電気花火などから遠ざけ、25℃以下に保存してください。缶を開けない儘でしたら、内面に銅メッキがほどこしてありますから普通に貯蔵しておけば品質は変わりません。開缶后24時間以上経過したものは、麻酔用に使用せぬようにして下さい。」

 用法・用量:吸入麻酔として用事、適量使用

(注1)キリンホールディングスの傘下企業であるメルシャンの前身で、1962-1985までの社名。メルシャンのホームページに詳しい沿革

(注2)E. R. Squibb & Sons: 1854年にはエーテルの効果的な蒸留法を開発。1989年Bristol-Myers と合併し、Bristol-Myers Squibbとなる



■麻酔

特性:MAC 1.92, 血液/ガス分配係数12, 生体内代謝率3.6%

利点:呼吸抑制・心筋抑制が少なく、心筋のアドレナリン感受性を増加させない

欠点:気道刺激が強く唾液・気道分泌が亢進する。導入・覚醒が遅い。血糖上昇をきたし、代謝性アシドーシスとなりやすい。術後嘔吐が多い。爆発性がある

■使用法:Open Drop (開放点滴). Semi- open. Insufflation. Semi-closed. Closed. いずれの方法でも用いられる。エーテル用の気化器についてはこちらをご覧下さい

Open Drop (開放点滴法)

古典的投与法で欠点も多いが、器具がほとんど要らず、実施が簡単である事や、死腔が少なく呼吸抵抗が少ないという利点もあり、小児でしばしば用いられた
 エーテル開放点滴マスク

 患児の口と鼻を覆う最小の物を選ぶ

 マスクの半球面をガーゼで覆うが、ガーゼの厚さは導入時はやや厚め(8枚くらい)とし、維持時は薄め(4枚くらい)とする
 麻酔点滴瓶

 左:東大式

 右:シンメルブッシュ

 この中にエーテルを入れ滴下した
 開放麻酔器セット

 仮面(ヤンカー型)大、小、極小

 麻酔点滴瓶(シンメルブッシュ氏)

 エアウェー(大、小、乳児用)

 舌鉗子

 開口器

 この他にも、マスクの下に酸素を投与するための管と、分泌物を吸引する装置は必須である
 前投薬:唾液気道分泌亢進作用を抑制するためアトロピンを投与する。バルビツレート注腸による基礎麻酔をするのも良い

 布で必ず患者の両目を覆い、角膜損傷を避ける

 大人では導入が遅いため、通常静脈麻酔薬を用いて導入する

 マスクの上からエーテルを滴下する

 はじめゆっくりと、マスクの表面に広く分布するように滴下する。いきなり高濃度のエーテルを吸入させると、喉頭痙攣や高度の循環抑制等をおこす危険がある

 導入後早期からマスクの下にチューブを用いて酸素を流し、エーテル蒸気による酸素希釈・欠乏を予防する

 マスクのガーゼが水蒸気で湿ってきたら、適宜他のマスクと交換する

 手術が終了したら、マスクをはずす

 手術終了後、生理食塩水で洗眼するとよい

参考・引用文献:

北原哲夫, 河口太平; 実地医科のための麻酔第4版, 1971年, 南山堂